diary日 記 2024 / 06/ 01

引退後の人生を夢見るフランス人

久しぶりに東京を出て、1泊でしたが鬼怒川に行き来ました。温泉もなかなかでしたが、今、この場で記憶に残っているのは車窓からの眺めです。JRと東武鉄道の沿線ですから、人里離れた山の中というわけではありません。ところどころに点在する人家と手入れの行き届いた水田があり、合間につい数年前まで水田だったと思しき草茂る空き地です。水田では定規で計ったように植えられている稲がしっかり根付き、すでに20㌢ほど伸びていたでしょうか。きっと、かつては延々と稲作地帯が続いていたことでしょう。草ぼうぼうの空き地が水田に隣接しておりましたから、プロの手にかかればそこでトマトやピーマン、ナスなどのお野菜ならすぐ作れるにちがいないと確信。わが国の食料自給率の低さが問題になっておりますが、その気になれば数年で50%くらいの数字になるかもと楽観的過ぎる予想が頭をもたげました。そして随所に増殖しつつある、こんもり茂った雑木林の緑が気になりました。微妙に濃淡が入り混じった美しい雑木林が、数年もすれば森林に育ってしまうことでしょう。鬼怒川温泉までの車窓の眺めが時として、半年前のパリから地方へ向かった日の景色と入れ替わりました。日帰りで訪れたボルドーやアミアンに至るまでの数時間、窓の外をひたすら眺めていた私の目に映った光景が蘇ります。真冬とはいえ、延々と続く外の景色は牧場と、収穫を終えたばかりの裸になった耕作地と、冬なお緑の野菜畑でした。通過した駅舎の周辺に数軒の家はありましたが農民たちの姿はなく、大木の下でのんびり草を食む牛や羊がいた光景は、農業国であることが矜持のフランスの面目躍如。各国の経済学者たちから少子化に警鐘を鳴らされているわが国とは、状況がちがって当然です。単純にくらべられない日仏について云々するのはやめて、話題を一転。フランス人のだれもが憧れる、定年退職の田舎生活についてお話ししましょう。

拙著、『フランス人は人生を三分割して味わい尽くす』(講談社新書)で書いたように、彼らは生まれてからパートナーと出会うまでの時期を初期。就職し、パートナーと共に子供を育てる時期を中期。そして晴れて退職し、ふたりで田舎に引っ越して人生を謳歌する時期が第3期。ホップ・ステップ・ジャンプで、働かなくていい退職後が人生の収穫期とばかりに、カップルで生きる歓びを満喫。理想の第三ステージになる物件探しのスタートは早く、幼い子供たちを連れてのバカンスで訪れた村の不動産屋さんからはじまり、値段を吟味。ある意味、バカンスの目的のひとつに、終の棲家を探す名目があります。兄弟姉妹のうちの誰かひとりが両親のいる生まれ故郷に残るケースは多いですが、現役時代に働いていた都会を離れ、生まれ故郷とはちがう場所を彼らは熱心に探します。なにしろ働かなくていい、人生最高の時期を過ごすための場所探しは慎重です。『フランス流お金をかけずに豊かに暮らす方法』(KADOKAWA)の実践です。そう考えると東武鉄道とJRが通っている鬼怒川方面は温泉もあり、第3ステージに打ってつけ。人口が増えれば、やがて休耕地が野菜畑になることでしょう。これからは訪れた先々で観光客としてではなく居住者の視点で、あなたのご趣味に終の棲家探しという、新たな課題を加えてくださいな。