diary日 記 2023 / 05/ 01

映画 『ノートルダム 炎の大聖堂』

銀座四丁目の交差点から晴海通りを日比谷寄りに和光側2本目の路地を右折、名画座の<シネスイッチ>で観てきました。ドキュメンタリー仕上げですし、よほどフランスにご興味がある方しかいらしてないと思いましたら、コロナ以来の入場制限が守られていて満席。先に着いていらした親友がチケットを買っておいてくれたので、どうにか入れました。2019年4月15日のノートル・ダム寺院炎上が、当時、連日報道されていた黄色いジャケットの首領とマクロン大統領の8時間におよぶ会談中と重なったことで、放火説も囁かれましたが映像が否定。火事の最中に撮影できたはずはなく、ノートル・ダム寺院(略してN.D.)火災を大規模なセットでリアルに再現。全編IMAXという認証デジタル・カメラ、ひと昔前の言葉なら特撮と呼ばれた手法で撮られた超大作でした。J・J・アノー監督の作品で過去に外したことがなかったとはいえ、その圧倒的なリアリティーにただただ感動いたしました。N.D.炎上の事実で空白になった人々の記憶に、この映画が新たな一面を付け加えた気がいたしました。観終えてから、映画の案内に“794年の歴史を変えた”と書かれてあった意味が、そういうことだったのかと納得。作品の完成度はもちろん、監督の知名度と人気が手伝って、たぶん配給元の予想を上回る興行成績になるのではないでしょうか。そうなると上映館もふえるはずですので、ぜひ、ご覧ください。

ドキュメンタリーですから、N.D.の警備員として新たに採用になったアフリカ系移民青年の登場からはじまります。火災探知機や警報装置が並んだ1階の事務所に私も入ったことがあったので、まさかの異変に気付いたときの彼の慌てぶりが伝わってきました。なにしろ国宝どころか、世界遺産ですものね。一度目のアラームを上司に報告したらよくある誤報といわれたわけですが、その間に火がじわじわと延焼。ゴシック建築の最高峰ともいわれていたN.D.は外観からは石造りに見えますが、梁の部分に多用されていた古木にボッと火が回り、万事休す。大聖堂の随所に使われていた鉛が高温でトロトロ溶けて流れ落ちるさまと、広場を見下ろす不気味な怪獣のキマイラの組み合わせの妙に、思わずヴィクトル・ユゴーの『ノートル・ダム・ド・パリ』を映画化した、アンソニー・クイン演じたカジモドがだぶりました。ジプシーの美しい娘、エスメラルダが軟禁されていた部屋とおぼしき場所も見られたのは想定外の収穫でした。そしてさすがN.D.であることに納得した部分に、「いばらの冠」の救出騒動がありました。品行方正で信心深いことで聖王と呼ばれていたルイ9世が莫大な金額で入手したキリストの聖遺物で、同じシテ島にあるステンド・グラスで知られるサント・シャペルに収めるはずだったものでした。そもそもサント・シャペルの完成が遅れたことで、N.D.で保管されることになったという不思議な経緯があります。そして、この作品の圧巻はなんといっても、消火に当たった逞しい消防士たちのヒューマンドラマにちがいありません。とくに危険な火災現場で、消防士たちにひとりも犠牲者が出なかった点が見事にクローズアップされております。この作品は等級を越えた責任感と捨て身の消火活動の裏に見え隠れする、消防士たちの生死を賭けた葛藤がリアルに描かれております。エリゼ宮から火事現場に駆け付けたマクロン大統領の位置づけもさることながら、迷路のように入り組んだ道と火事場見物の人だかりに阻まれて右往左往する消防車の背景に映し出される、パリの雑踏も見ものでした。