diary日 記 2022 / 03 / 01

「ひまわり」の舞台がウクライナでした

ウクライナ地方、地平線の彼方までつづくひまわり畑を背景に、茫然と立ちつくすソフィア・ローレンの姿は圧巻でした。ヴィットリオ・デシーカ監督の『ひまわり』をご覧になっていらっしゃらない方のために、あらすじを申し上げましょう。戦地に出たまま消息を絶った最愛のダメ夫の消息を求めて、ソフィア・ローレン扮するジョヴァンナがウクライナ地方の小さな村にたどり着きます。髪振り乱してやつれ切った彼女が訪ねあてた家には、若いロシア人女性と彼女の幼い娘がおりました。イタリア語とロシア語で通じないなりにふたりの女が、マストロヤンニ扮するアントニオの状況を語り合います。極寒のウクライナで瀕死の重傷を負い、意識がなかったアントニオは彼女の献身的な看病のおかげで一命を取り止め、成り行きで彼女と所帯を持っていたわけです。出征してからその日までアントニオが生きていると信じ、探し回っていた自分はなんだったのかしらとソフィア・ローレンの迫真の演技が光ります。仕事から帰宅し、若妻の説明で事情を呑み込んで駅まで追いかけて来たアントニオに背を向け、列車に飛び乗った車内でさめざめと泣くジョヴァンナ。列車の窓の外にも、ひまわり畑が延々と続きます。ミラノに戻った彼女は、アントニオ一途だった今までの禁欲的な生活から一転、奔放な日々でした。そんなある日、彼女を訪ねてミラノに来たアントニオは、赤ちゃんと一緒にいる彼女を目の当たりにしたのでした。赤ちゃんの名前を聞かれて、不愛想にアントニオと答える彼女。誰のせいでもない強いていえば戦争のせいなわけで、ヘンリー・マンシーニのテーマ音楽が流れます。『昨日 今日 明日』、『ああ結婚』、そして『ひまわり』でパートナーを組んだマルチェロ・マストロヤンニのダメ男ぶり健在の『とくべつな一日』も見逃せません。

わが国の食用油といえば菜種油ですが、ヨーロッパではひまわり油がオリーブ油と並んで主流です。ミラノ中央駅から東に向かう列車でどこをどう通過していったのか、黒海に近いウクライナの寒村に到着。地続きのヨーロッパならではの物語ですね。ヴィットリオ・デシーカ監督もさることながら、プロデューサーのカルロ・ポンティの力量も前代未聞。生涯をともにしたソフィア・ローレンの主演作だけで30本、プロデュースした総数130本の異才です。そうそう、『ドクトル・ジバゴ』もカルロ・ポンティがプロデュースして、アカデミー賞を受賞した作品でロシアが舞台でした。オマーシャリフ扮するジバゴと運命の出会いをする健気なラーラ役をジュリー・クリスティー。これもまた切なすぎる宿命の男女が、ロシア革命と第一次世界大戦の共産主義の大嵐に翻弄される物語です。『ひまわり』にイデオロギーの出番はありませんが、ソビエトという国の模様が『ドクトル・ジバゴ』で全開になります。映画の最初のシーンで披露されるロマノフ王朝時代のブルジョワ家族のパーティー場面の華やかさが、憲兵の靴の音に変わり、ジバゴとラーラの運命がぐしゃぐしゃに、これでもかとばかりに時代に翻弄されるストーリーは私の映画ベスト5に入ります。1991年のソビエト連邦崩壊が何だったのかと思えるような今回のウクライナ侵攻でしたが、『ドクトル・ジバゴ』をご覧になると一連の経緯がわかりますよ。それにしても、カルロ・ポンティに次ぐプロデューサーは、もう出ないでしょうね。先週、BSで『戦争と平和』が上映されてましたが、ウクライナ関連でこの2作もあるかもしれませんね。それでは、ウクライナの人々の平和を心からお祈りしましょう。