diary日 記 2022 / 01 / 15

観劇やコンサートのあとはアプレ・スペクタクル

シーズンならではのオニオン・グラタンを作りながら、行かずに楽しむパリ旅行を満喫しました。持っている一番大きなお鍋にオリーブ油を多めに入れて、今回は大きめにカットした玉葱をぼんぼん投げ入れました。近くのスーパーでたのんだ配達品に4個入りを5袋入れたので、全部で20個の玉葱の皮を剥きました。お鍋をガスにかけて切った順に入れて、全部入れた段階ではじめて木べらで攪拌。そのころには涙も止まり、炒めた玉葱の幸せオーラがキッチンに香ります。お鍋から立ち上る湯気が熱いので、右手に軍手をはめて木べらを回しながら、長く忘れていたフランス語の単語が記憶をよぎりました。さすがにフランスもコロナで大打撃をこうむっておりますから、蘇ったのはコロナ以前の光景でした。アプレ・スペクタクルがそれで、お芝居などの舞台やコンサート、映画を鑑賞したアプレ、あとのことです。そもそも夜の部のスタートは遅く、早くても20時開場、20時半開演といったところでしょうか。そういえば赤表紙の分厚いガイドブックで知られるミシュランの巻頭索引に、アプレ・スペクタクルの区分で何軒ものビストロやブラスリーがリストアップされていましたっけ。一番知られていたのが24時間営業で、オールシーズン生牡蠣が食べられるオ・ピエ・ド・コションでした。夜のパリ、シャトレ劇場あたりがはねたあとのさんざめきを思い出しながら、木べらを回します。横長の楕円形したパリの町は直径が横9㌔、縦6㌔と小さいので、終電を逃しても歩いて帰宅可能です。お芝居がはねたあとで、一緒に観ていた恋人や仲間たちと作品についての感想を交換し合うのが当たり前。面白かったときには誰もが興奮し、そのまま帰れるはずがありません。お芝居もオペラも観ることに意義があるのではなく、観た感想を分かち合うことが肝心なんです。若者たちは劇場近くのカフェに、お財布に余裕がある大人たちはアプレ・スペクタクルをうたったブラッスリーやビストロに流れます。劇場が集中しているシャトレあたりでしたら、オ・ピエ・ド・コションがベストです。ミシュランの話がうやむやに終わってしまいましたが、お鍋の玉葱が色よく焦げるのを待つ間に最近のミシュランを持ち出してみました。長いこと確認していなかったので諦めもつきますが、巻頭の索引から残念ながらアプレ・スペクタクルの項目が消えてました。

前置きが長くなりましたが、アプレ・スペクタクルにいただくメニューの代表が、オニオン・グラタンです。夜の10時をとっくに回っているので、さすがにステーキは胃にもたれますもんね。もちろんオ・ピエ・ド・コションご自慢の、プラトー・ロワイヤルと呼ばれる数段の生牡蠣の盛り合わせを注文したらギャルソンに喜ばれるにちがいありませんが、お夜食はワインとオニオン・グラタンで十分です。溢れんばかりのキツネ色にこんがり焦げた熱々のチーズをかぶった、大ぶりサイズの専用ボールでオニオン・グラタンが登場します。略してオニグラが前菜の場合のワインは白でしょうが、オニグラ一品かデザート付きの場合にふさわしいのは赤です。もし、観たお芝居が不幸なほどひどかったらそのまま解散もありですが、及第点以上なら赤ワインとオニグラで零時過ぎまで喧々囂々と盛り上がることでしょう。お芝居やコンサートは彼らにとって純粋にハレのイベントなのですから、余韻を楽しむエネルギーも全開になります。演劇評論家よろしく、運ばれて来たオニグラがぬるくなるまで、観たばかりのお芝居の感想を熱心に語り合うパリっ子たちの姿が目に浮かびます。フランス人って、実は無類のネコ舌ぞろいなんですよね。