diary日 記 2021 / 07 / 15

日本の桃は桃のエルメス

桃のシーズンになると、「日本の果物は世界一」を実感します。柔らかく甘美で香しい桃で、過去、なん人の外国人を感動させたことでしょう。リンゴは海外旅行のときにこっそりトランクに入れてお土産にできますが、さすがに桃は無理です。それでも「デリシュー!!!」の一言が聞きたくて、頂き物の桃があるとご近所のフランス人マダムを誘います。ときには日本の果物見せたさに、新宿の高島屋かイセタン地下の果物コーナーにお連れします。果物についているpiece表記を見て彼女たちは、「1キロの値段じゃないの?」と訝しがりますが、私は臆面もなく、「果物の宝石だから」と自信満々。お野菜もしかりで、日本のお野菜はだんぜん美味しいと在日外国人に人気です。ただ、贈答品という概念がない人たちにしてみれば、金のシールが貼ってある果物はまさにミラクル。でもですよ、ここで冷静になって考えてみましょう。たとえばフランスは、世界に冠たるブランド大国ですよね。ワインが証明してますが、食品についてはA.O.Cで印される原産地証明という、厳正なる国家基準があります。同じ鶏肉でも、たとえば最高のブレス産の鶏肉のお値段は農家産の鶏肉の10倍ではききません。農家産の鶏肉はブロイラーではありませんから、わが国の若鶏表記の鶏肉よりずっと高値なんですが、もっともっと目の玉が飛び出すほどブレス産鶏肉は高級品。そうですね、ブロイラーの100倍以上かもしれません。屋外で飼育されるブレス鶏は、1羽につき10㎡が義務付けられてます。他にもいろいろな決まりごとがありますが、リヨン近くのブレス鶏を鶏肉のエルメスといっても異論はありますまい。もうひとつ、仔羊肉にもエルメス級があります。プレ・サレと呼ばれる、海水に浸る牧草地で育つ仔羊です。飼育される場所からして超のつくセレブで、ユネスコ遺産でもある島ごと修道院のモン・サン・ミッシェルの干潟。潮の満ち干が激しい景観の中で、海水で育った牧草を食べて育つわけですから並の仔羊とはちがいます。プチ・サレはフランス全土の三ツ星や二ツ星の高級レストランでいただくか、パリのフォションに電話して有無を確かめてから買いに行かないと手に入りません。

フランス産の鴨のモモ肉やホワイトアスパラなどの高級食材は、大切なお客さまをするときなどにアルカンというフランス食材の輸入会社から買ってます。ひるがえってパリやロンドン、ロスやN.Y.で和食のいい食材を買うとしたら……あんがい難しいんですよね。お醤油はカリフォルニア産のキッコーマンが国内産と遜色ないレベルでしたが、ふつうの在外日本人は国内なら最安値の食材を冷凍で船便といったクオリティーで我慢。日本食ブームが巻き起こっているのは事実ですが、パリやロンドンに行くたびに参考までに覗く日本食品店は相変わらず。高級日本食レストランは、独自ルートで和食材を調達しているようです。各国で食品の輸入規制はあるでしょうが、わが国に入っている高級フランス食材相当の高級和食材を売っているお店があってもいいのにと思います。世の中には、お金に糸目を付けないで高級品を買う人種がたくさんいるはずですもの。物作り大国、日本の工業生産品や「無印良品」や「ユニクロ」だけでなく、世界一美味しい日本産の果物やお野菜が、パリのフォションやミラノのペック、ミュンヘンのダルマイヤーあたりに置いてあってもいい気がしますが、どうかしら????