diary日 記 2020 / 05 / 01

無理するより落第を選ぶフランス人

コロナの拡大を受けて、今年のバカロレア試験の中止が決まりました。バカロレアという言葉をはじめてお聞きになる方のためにご説明しますと、フランスの大学入試資格のことで略してBAC。多くのフランス人にとって、人生で最初で最後の国家試験なわけで、ナポレオンが1808年に制定して以来はじめての中止とか。今年は例外的に学科試験の代わりに、選考基準が生徒たちの日ごろの成績プラス面接になり、彼らの学問に対する意欲の評価が加わるそうです。コロナのおかげで試験がなくなり、高校のリセ最終学年の子供たちと彼らの親たちの、ストレスがなくなったようです。ちなみにパリ地区なら、BACを取得して旧称ソルボンヌで親しまれているパリ大学に進むのが一般的。ところが大学を1年目でギブアップしてしまう学生があんがいいて、BAC+1という卒業資格で就業する若者が少なからずおります。入るのは簡単で出るのが難しいフランスの大学と、大学入試さえクリアすればところてん式に卒業できるわが国の大学のちがいですね。大学に対する認識の日仏の温度差もさることながら、両国の教育に対する意識のちがいは歴然。実質的な留年ですが、フランスは義務教育でもバンバン落第させます。延べ人数にすると、大学を卒業するまでに半分以上の生徒が留年を経験するので親も慌てません。

義務教育が9年間なのはわが国と同じですが、フランスは小学校が5年間で中学が4年。ピッカピカの1年生からして、2年生に進級できない子供がいるなんて可哀そうと思うのは私たち日本人。子供たちだけでなく親たちも、進級できないからといって恥ずかしいとか体裁が悪いとは思いません。大方の親は無理して進級するより、同じ学年を二度やって、わかるようになってから進級した方がいいと判断。そうはいっても子供の落第を、喜ぶ親はいません。息子さんの落第を担任の先生から言い渡されたママが、帰宅してご主人にそのことをいったときの、親友ご夫妻の会話シーンをたびたび思い出します。小1の学年末、帰って来たマダムから息子の落第を告げられたムッシュは、両手で頭を押さえて即座に「オッ・ノン!!!」といって、 私たちに背を向けて自分の書斎に入っちゃいました。夫の嘆きをよそにマダムは「セ・パ・グラーヴ!!!」、 大丈夫よと口をすぼめコーヒーメーカーのスイッチを入れたのでした。彼らは先生に抗議することもなく、授業について行けてなかった息子さんの留年、つまり落第に甘んじました。中には学校側の落第宣告を認めず、自分の子供の不出来を教師のせいにして校長先生に直訴する親もおりますが、学校側は頑として折れません。ほとんどの親たちは、すんなり落第の道を選びます。さてさて、コロナで外出禁止令が出るや子供たち全員に、タブレットが支給されたフランスでオンライン授業がはじまってひと月以上。私がメールやスマホで現地の友人たちに聞いた、親たちの反応は意外やイマイチ。「出題されている問題の質も量も、成績のいい子にしかこなせない」といって、タブレットに向かう小1の娘の頭を撫でていた、TV電話に映った友人母子は多数派でした。ということは……極論で恐縮ですが、子供たちにタブレットを配布する代わりにひとり10万円の支給を決めた、わが国のやりかたの方がマシということでしょうか???? なにはさておき、コロナ最前線で身を挺して医療に従事してくださっている方々に心から感謝するとともに、一刻も早いコロナの終息を祈ってやみません。