diary日 記 2018 / 12 / 15

パイ生地には二種類あって……

久し振りにキッシュを作りたくなって、はたと考えました。GS(私がしていたジョルジュ・サンドという焼き菓子屋の略)をしていたころ、毎朝、ほうれん草とチーズの直径26㌢のキッシュを焼いてました。生地は作り置きで、バターと小麦粉を1対2強の割合プラス打ち粉で、店に届く中澤乳業のバターが450㌘でしたから、小麦粉の量は1㌔弱。手の空いたときにケンウッドの中型ミキサーを回し、フィニッシュは手捏ねです。途中までミキサーに捏ねてもらった生地を6分割して、捏ねて捏ねて、艶やかなまん丸になるまで全力で捏ねます。誠心誠意、無心で捏ねませんと生地がぼろぼろして、麺棒できれいに伸びないんです。無心といっても無我の境地ではなく、本業のエッセイのネタを考えながらとか、マイ・フェイヴァリット・シングスのこととか、フランスのブルゴーニュ地方で食べたココ・ヴァンという、ヒネ鶏の赤ワイン煮のことなど思い出しながら、手の平で愛でるように生地を捏ねてました。ところが今回、久しぶりにキッシュを作ろうと思いついたまではよかったのですが、バターと小麦粉を混ぜて生地を作る決心がなかなかつきませんでした。店をはじめた以前は、当たり前のように作っておりましたのにね。自慢ではありませんが私は、ものぐさでも、面倒臭がり屋でもまったくありません。思い立ったら吉日と即、行動に移すタイプです。

今回にかぎって生地捏ねに躊躇したのには理由がございまして、ピカールの冷凍パイ生地の存在が私の生地作りを邪魔したんです。ピカールというのはフランスの冷凍食品のトップメーカーで、大手スーパーのイオンと提携。表参道に1号店ができ、つい最近、神楽坂の一等地にも出店。オープン当初、パート・ブリゼと呼ばれているキッシュ用の練りパイ生地が、たしかに表参道店にあったのです。『徹底してお金を使わないフランス人から学んだ本当の贅沢』という主婦の友社から出していただいた本に載せる写真撮影用に作ったリンゴのタルト用の生地がそれでした。パイ生地には練りパイの生地とミル・フイユのように幾重にも層になっている折りパイ生地の2種類があります。比較するのも変ですが、手間暇、技術的にパート・フイユテと呼ばれる後者の折りパイに軍配が上がります。今はピカールのショップにパート・ブリゼはなくなったそうですが、代わりにパート・フユイテという練りパイより格が上の、折りパイの生地がありました。お材料のバターはフランス製ですから、折りパイの冷凍生地を解凍して捏ね直したら美味しいブリゼになるかもしれない。でも、せっかく層になっているパイ生地を捏ね直して、層を潰して練りパイにしてしまっていいのだろうかetc. 悩んだ末に、ものは試しの好奇心が頭をもたげてようやく実行。解凍して捏ね捏ねして、こんなに手間をかけるなら最初からバターと小麦粉で作ればよかった……。いくつになっても初心を忘れず、なにごとも経験と謙虚に受け止め、ジレンマと戦った数時間でした。