diary日 記 2018 / 09 / 01

建て替えがないパリのアパルトマン

最近、「都心のマンションがパリのアパルトマンのように高くなる……」といった記事が目につきました。内容をよく読みましたら、残念ながら不動産業界の提灯記事。それにしても“東京のマンション価格の高騰は驚くに足りない、パリはもっとすごいんだから。これから都心の不動産価格もパリ並になる”といった趣旨のなんと浅薄なこと。偉いコンサルの先生がおっしゃっていらっしゃいますが、基本的な要素がインプットされてません。いくつかお教えしたくなりますが、聞かれてもいないのに申せませんから、ここだけね。欧米だけでなく今や、北京や上海の物価も東京よりお高いですから、不動産の売買価格も推して知るべし。ロンドン、パリ、NYやデュッセル、そうそうジュネーブやヴェニスなどは論外。それにパリのアパルトマンといっても、パリという都市自体がセーヌ川を挟んだ楕円形の横12㌔、縦が9㌔と小さいんです。その中でもルーヴル美術館がある辺りから時計回りに一桁が不動産価格は高く、かつてはブルジョワジーが好んで住んだ16区、17区の一部もそこそこ。各国ともリーマン・ショックで一時的に下落しましたが、すぐに盛り返したことで不動産価格は上がり続ける説が定着。ただしですよ、これからが本題。江戸時代にして100万都市だった東京の特異性を、他国と比べて思いつくままにお話します。

まず、土地の所有権は最終的に国にあるといった概念が、わが国には通用しません。私有財産保護のもと、分譲マンションにもわが国には「土地の神話」があります。都心の超高層ですと一軒分が10㎝四方くらいでしょうが、個人が土地を所有。ところがパリだけでなくフランス全土で、土地所有がありません。これについては住み慣れたパリのアパルトマンを売ったときの私の経験の裏付けがありますから、説得力ありますよ。しいていえば永代使用料といった、つまりは所有権なんです。所有と所有権の二者択一ではなく、絶対的な決まり事なんです。そこから派生して、近未来にわが国の分譲マンションの持ち主に襲いかかるであろう建て替え問題がかの国にはない。なぜかというと、最終的に土地所有が国家に帰属しているので公益性の名の下に、いざとなれば国の強権で住民を退去させられるわけです。それ以前に「200年たった建物ならこの先の200年も大丈夫」なのは、地震大国では無理ですが。もちろんリノベーションはありますが、たとえば1000世帯以上の広尾ガーデン・ヒルズのようなヴィンテージ・マンションが数年がかりで一斉リノベはほぼ不可能。とくにリッチなフランス人1000軒のコンセンサスが取れるはずありません。それに加えて、管理組合にも日仏差が際立ちます。それでは次回は、管理組合こぼれ話でもいたしましょうか。