diary日 記 2017 / 05 / 15

「 ブリジット・コールが聴こえる! 」

「うふふっ、私と同じ歳」とか、「えっ、夫より24歳も年上のファーストレディー?」などなど、さまざまな憶測が連鎖し、マクロン氏の大統領就任は私たち女性たちの福音になりました。岸恵子さんの自伝的な小説も主人公の女性が恋人より十数歳上でしたが、けっきょくは破局。マクロン大統領の場合は、長年おふたりと親しい人たちが太鼓判を押すおしどり夫婦。高校教師と生徒という関係でのなれそめに、眉をしかめる人たちも少なからずいらっしゃいましたが、強烈なブリジット旋風にそんな陰口が見事にかき消されました。「ブリジット!ブリジット!」はては、「ブラボー・ブリジット!」と連呼する、彼女のファンたちのラブコールが聴こえます。「そうなのよ、これがフランスとアメリカのちがいよね」とか、「トランプ大統領の歳の差婚は月並みなパターンだけど、やっぱりフランス人はちがうのね」ときました。そうそう、パリの私の家によくいらしたカップルも、女性が85歳で男性60歳でしたっけ。そういえば彼女が、「また未亡人になりたくないから、もう結婚はしないの」と言って、60代の恋人に目配せしていた光景が記憶をよぎります。「恋をしていると気持ちがポジティブになって、子供たちにも優しくなれるの」と言っていらした、彼女の顔が目に浮かびます。激しい選挙戦の疲れも見せず、いつも笑顔を絶やさないフランスのファーストレディーの誕生が私たちに、アムール、愛について考え直すきっかけを作ってくれたかも。「私だって愛に満たされていたら、子供にも夫にも文句なんて言わない」といった、風が吹けば桶屋現象も起きてます。

ブロンドに染めてはいるものの、さりげない髪といい、シワを隠すどころか、目元以外はメイクも薄く自然体。TVに映し出される彼女の姿に、しばし見入るのは私だけではないはず。小池都知事が誕生したときもうれしかったですが、ブリジットも格別。フランス人がよくいう、「シワの数ほど美しい」と讃えられる、成熟した女性の余裕そのものです。バカンス焼けはブルジョワの象徴なんて勘ぐらないで、それはそれ。リッチな家庭に育ちながら、職業は地味な国語教師。ふた回りも下の夫が、億と稼いでくれていたのですからいいじゃありませんか。そもそもフランスでは、もちろん一握りの超エリートの場合ですが、優秀な学生の中でもとりわけ潤沢に資産がある学生が、政治家への道を選びます。反対にお金を儲けたかったら、政治家を志さないで民間企業に入るわけです。経済相になる以前のマクロン氏が携わっていた米系の金融企業などは、大きな収入につながる最短コース。国家公務員の上級職や、一昨年にヒットした『新資本主義』で盛り上がったピケティのような学者も、政治を志す部類と同じでお金が儲からないのは承知のこと。ブリジットとの歳の差婚も見事ですが、大統領に就任したマクロン氏の鮮やかな転身ぶりこそ、「お金は右でハートは左」というフランス人の金銭感覚を見事に言い当てていてブレがない。「ふたりの愛は、誰も邪魔できない。これからはフランスをよくするために、大統領になろうか」と、親子のような夫婦が相談したのかしら。さてさて、大統領としてのお手並みをとくと拝見しようではありませんか。