diary日 記 2016 / 10 / 01

「 ありのままの自分でいたい 」

書店さんの生活コーナーの平台にならんだ本の、タイトルに「フランス流」とか「フランス式」の文字を眺めて腕組みし、やがて私はこう合点したのでした。「そうか、女性たちのありのまま願望の矛先が、今、フランス人に向いているんだわ」と。かくいう拙著も『……フランス仕込みの暮らし術』ですもんね。たしかにパリの町ですれちがうフランセーズのだれもが、かぎりなく自然体。素肌メイクを装うために長いこと鏡の前にいることもなければ、シャンプーしたままの髪をシニョンにまとめて、みだれ髪もなんのその。そもそもフランスの女性たちは、ブロウが苦手。空気が乾燥しているせいもあって、朝シャンでタオルドライのままご出勤。そうこう考えている私の目に、『パリマダムのグレイヘアスタイル』という主婦の友社の本の表紙が飛び込んできました。副題がなんと、「ありのままが美しい」であり、<染めない>を選んだ女性たちの一冊でした。白髪染めの呪縛から自由になれば、心もお財布も楽ですよね。ご存知でしょうか、そんなパリジェンヌの自然体が実は、男のリップサービスのたまものだということを。自己主張が強くて、他人のいうことなどおいそれと聞かなそうな彼女たちですが、恋人のいうなりになるから意外です。マリア崇拝で女性を尊び、女性にひれ伏すことに慣れている男性は一方で、女性の扱いにも精通。女心の愛されたいモードに巧みに迫る、フランス人男性こそ役者です。人生は一度、狐と狸でいいじゃないですか。その目的が、ひとえに愛に殉じる覚悟なら大いに結構。それではここで、女性より一枚上手な男性のユーモア満点な言動に、ズームで当ててみましょう。

これは拙著にも書いておりますが、土曜の午後のカップルにこんなひと幕があります。予約している美容院に行くといったマダムにムッシュが、こう声をかけます。「どうして美容院に行くの。君の今のヘアスタイルが、だんぜん素敵だよ。さあ、こっちにおいでよ」。キャンセルされた美容院はたまりませんが、お客さんは気が変わりやすいものと彼らもわきまえます。私のお給料を、どう使おうと勝手でしょうは、仲良しカップルの禁句。そしてほしいものたくさんの女性の出費を、パートナーの男性は抑えようと努力するのがフランス流。誉め殺しの手管も、愛に満ちたバカンス費用捻出のためなら許せるかも。物欲より愛欲の方向に話がそれましたが、誉めるって大切ですよね。