diary日 記 2016 / 05 / 15

シャンゼリゼ通りの歩行者天国

「いいのかしら、大丈夫なのかしら?」と、パリのシャンゼリゼ通りが月イチで歩行者天国になるニュースをテレビで観て私は、とっさにこう思ったのでした。深刻な大気汚染を軽減するためというアンヌ・イダルゴ市長の大義を、そのまま鵜呑みにするのはいかがなものでしょうか? NY、ロンドン、東京とパリの空気の汚れ度を正確に数字で比較してもらいたいものです。大気汚染を理由にしなくても、誰だって大手を振ってシャンゼリゼ通りを歩きたいです。凱旋門からコンコルド広場にいたる幅124m、片側4車線の広々とした、歩行者天国の大通りは圧巻です。大気汚染というエクスキューズがなくても、女性市長さんの決断はすばらしい。ほかの都市でもはじまるそうですが、なんといっても花の都パリでしょう。歩道も広いし、なんといっても坂道ゆえのパースペクティブは完璧。凱旋門を背にして立つと、コンコルド広場のオペへリスク像とルーヴル美術館前のカルーセルの凱旋門、バスチーユ広場の真ん中の、天使像が輝く革命記念碑が一直線上。右手にセーヌ川が流れていて、川の対岸にエッフェル塔とナポレオンの棺が眠る金ピカなドームをいただくアンヴァリッドがあって公園の緑も満点etc。凱旋門から下り坂を闊歩すれば、パリという歴史都市を掌中にしてしまえると思うのは、あながち錯覚ではありません。歴代の権力者たちによって、これだけ計算しつくされて造られた都市が、他国にあるでしょうか。シャンゼ歩行者天国に、異論があろうはずがございません。ただ、しかし……なんですよね。

歩行者天国のシャンゼリゼ通りがテロリストに狙われると思ったのは、私ひとりではないはずです。パリ市当局としても、想定内のことにちがいありません。もちろん、テロによる観光収入の激減に、頭を痛めた苦肉の策。背に腹は代えられないという、お家事情がございましょう。でもでも、シャンゼリゼ通りと周辺の道を熟知しているだけに私は、背筋ぞくぞく。バリケードを張って、どこをどう防ぐというのでしょうか。不安ではなく、疑問が山積み。「そんなこと、百も承知よ!」とおっしゃるイダルゴ市長のお美しい顔が目に浮かびますが、テロリストたちは無類の目立ちたがり屋ですよ。ブリュッセル近くの移民労働者街で銃撃戦が繰り広げられたよりも、パリ郊外のサン・ドニのサッカー競技場とバタクラン劇場が爆破されたより、シャンゼリゼ通りの歩行者天国がやられたら世界中が注目して話題性は断トツ。その計り知れない効果に舌なめずりする、テロ首謀者たちがいるではありませんか。それでもやっぱり私も、歩行者天国になったシャンゼを歩きたい。宝くじも馬券も当たったことがない、私がいれば大丈夫。くじ運のいい方は、近づかない方が無難ですよ。