日本社会を支える「ジンワリ幸福論」

2015/11/15 

書店さんでふっと手にした新書を読んで、予想もしていなかった異質の感慨にとらわれました。最近よくある、家族は厄介、格差社会などとネガティブ要因の列挙とは対照的に、 読み終えてホッとするような、いい本でした。ふむふむ、『ビジネスマンのための「幸福論」』とは、これに尽きるなと感心したりジンワリさせられたり。著者はバリバリの元金融マンで作家の江上剛氏ですが、残念ながら面識はございません。でも、あたかも親しい先輩のお話をお聞きしているようでした。“ 大学に入り直したい。もう一度勉強したい――これが、今の私の希望だ。しかし、何を勉強したいかがわからない。何を勉強したいかがつかめないということは、まだ、その時ではないのだろう。いつ、そんなときが来るのか? それを楽しみに、今は仕事をすることにしよう ”のラスト4行に共感するのは、私だけではないはずです。

知らないことって、なにもかも新鮮に映るじゃないですか。もちろん、ビジネスマンの親友もおります。最近のWOWWOW話題作の『しんがり』の舞台になった山一の元証券マンや自動車メーカー、お役人もいますが、彼らからここまでの心情の吐露は聞こえてこない。というか、いつも私が喋ってしまう(笑)。今回は彼らを代弁した本著を、黙って読んだ感じもします。なん箇所か、そのまま引用してみますね。“ 年功序列の長所は、成果が上がらなくても給料は確保できるという安心感がある。誰でも、がんばれる年齢や期間は限られている。ほとんどの人は「平凡な安心感」を会社に求めている。これを否定したら、会社は不安を抱いたビジネスマンばかりになる。これでは業績は上がらない” みなさんは当たり前だとおっしゃるかもしれませんが、私には思いやりの塊。祖父の代からフリーランス稼業どっぷりの私は、よその惑星の話を聞いているようです。”人生は薄紙で塞いだ落とし穴の上をそっと歩くようなものではなかい”と、組織人で味わう緊張感にも痺れます。面白いのは不倫の箇所で、「俺は女性にモテる」という、変な自信を持たないことといって笑わせてくれます。“女性も男性も同じ部下として扱うべきだ。必要なのは「愛」であって、「恋」ではない”など、第一級の名言が多出。今回、私が読んだのはエッセイですが、ご本人は“小説を書いている時が一番幸せ”だとおっしゃる。氏が最高の先輩と仰ぐ井伏鱒二さんに就職の報告に行った時のエピソード、小説家の萌芽にちがいありません。井伏鱒二さん、私も大好きです。