複合家族

2015/5/15 

今日は、フランスの家族を覗いてみましょう。
「ねえ、ママ。バカンスまでに赤ちゃん来るの? 僕たちバカンス、どこに行くの?」と、幼い男の子が母親に問います。するとお腹のふくらみが目立つ母親が、使い終わった食器をキッチンペーパーで軽く舐って食洗機に入れながら、息子の質問にゆっくり答えるのでした。僕ちゃんの名前はピエールで、5月末のマロニエが咲きかける今の時期です。
「ピエール、今年はブルターニュにお家を借りてあるから、素敵なバカンスになるわよ。赤ちゃんも来るし、ジュリアもブルターニュでの3週間、私たちの家族になるのよ。海水浴もできるし、浜辺に遊園地があるの。お家の庭になった真っ赤なトマトを、もぐのがピエールとジュリアの役目ね。ジュリアはあなたの三歳お姉さんだから、遊んでもらえるわ。パパとママと、ピエールとジュリアと生まれたての赤ちゃんの五人で、ゆっくり過ごしましょう。その前に幼稚園が終ったら、マミーの待っているプロヴァンスで2週間、ママのお仕事が終わって赤ちゃんが生まれるまで、待ってて。去年の夏も行っているから、わかるでしょ。アンドレとニノンとピエールの三人で、森に行ったものね。ブルターニュから帰ってきたら、今度はパパとママも一緒に行って、アンドレのところでバーベキューしましょう」
ジュリアは彼女の現夫の、前妻との間の女児の名前で、平日は母親と暮らしているが、長い休みには父親が面倒をみる決まりになっている。
アンドレとニノンは彼女のお兄さんの息子と娘で、ピエールの従妹たちである。彼女の実家は、代々ぶどう作りの専業農家。お兄さんは地元の農業学校で醸造学を学び、今ではプロヴァンス・ワインの優秀な作り手として、パリにも名前が知られている。

お兄さんは仕事でパリに来るたびに、妹のアパルトマンに5、6ケースのワインを届けている。今の時代、とくにフランスでは、妹のような複合家族は珍しいことではない。それでも地元に残って静かに暮らしているお兄さんにしてみれば、妹のことが気になって仕方がない。妹が子供のいる同志で再婚し、新たに生まれるはずの赤ん坊を抱いて、バカンスの後半に実家に戻るという。夫婦といっても、正式ではなく事実婚。マミー、つまり兄妹の母親で、ピエールとアンドレとニノンのおばあちゃんは、娘が子供たちを連れて帰省すると聞いて即座に、「オ・ラ・ラ!!!」と、歓喜とほんの少し諦めているような複雑な微笑を浮かべたのでした。わが国の場合も少子化を防ぐには、複合家族奨励の世直しが最善策かもしれませんね。