散歩が文化になった、東京の「町歩き」 2009/11/15 

もの書きの私が、住んでいる神楽坂で焼き菓子屋を開いて、二年ちょっとになります。もの書き稼業と焼き菓子屋の二足のワラジの紐が、ちゃんと結べているでしょうか。厨房に立つ私の背中で、業務用のコンベックの低いモーター音が聞こえます。胸中のもろもろの思いにアクセントをつけるかのように、仲良くしていただいている町の人たちの言葉が蘇ります。

店をはじめたとき神楽坂の商店会長をしている、老舗の「毘沙門せんべい」のご主人が、こうおっしゃいました。
「本業があるのに、なにやってんだか気が知れないね。本を書いていればいいのに、呆れちゃうよ。だけどまあ、はじめちゃったんだから、ちゃんとやんなさいよ」 
抹茶ババロアで人気の甘味どころ、「紀の善」の奥さんが、こうもおっしゃいました。
「いいものを出していれば、そのうちいいことあるわよ。うちだって今はいいけれど、私たちの代になったときは大変だったんだから」

神楽坂の「町歩き」に最近、若い方々の姿が目立ってきました。若い女性たちの休日も、ショッピングよりも散歩がおしゃれだそうです。路地裏に立ち止まり、「町歩き」の雑誌や町内で用意している地図を、真剣に覗き込むカップルがいらっしゃいます。私たちの商店街が彼らのデートに、一役買っていると思うと嬉しさがこみ上げます。遠方から車で、東京に遊びにいらっしゃるご家族連れがふえました。地方から東京に来やすくなったことが、高速料金が安くなった最大のメリットにちがいありません。そういえば、フランス人の趣味の筆頭も「町歩き」です。お金をかけずに人生を楽しむことにかけて達人の彼らのように、お金をかけない「町歩き」にトライしてみようではありませんか。