シャルル・ド・ゴール空港の野うさぎと
『不思議の国のアリス』
2009/10/01 

最近、ある趣味に目覚めました。以前に読んだ本を、読み返す楽しみです。あまりの面白さに、ついつい一番カラスの鳴き声を聞く始末。青春時代とちがい熟年読書に、人生経験が味方します。若いころは感受性で読み、今は想像力で読む。まさに冒頭の、寺山修司さんの言そのものです。だってルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を読みながら私は、パリのシャルル・ド・ゴール空港を思い出したのですもの。

成田とパリを、なんど往復したでしょう。拠点を東京に移してから二〇数回、パリ時代に三〇回以上ですから、軽く五〇往復。今はJALと共同運航ですが、そのほとんどがエール・フランス便でした。運賃の安さとサービスもさることながら、パリ到着時間にこだわったからです。夕方にシャルル・ド・ゴール空港に到着する便を、あえて選んだからでした。

通称サン・セット便が着くその時間帯が、滑走路周辺の草むらに棲息する野うさぎのお遊び時間だったのです。ところが轟音とともに、空からジャンボ機が降ってくるではありませんか。ジャンボ機の急襲をうけて野うさぎが、いっせいに巣に逃げ込むのでした。窓ガラスにへばりついて私は、丸い尻尾を持ち上げぴょんぴょん跳ねる、無数の野うさぎを目で追ったものです。そんなある日、パリ空港に勤務していた友人からこんな話を聞いたのでした。構内の社員食堂の、うさぎ料理がガソリン臭いと。もちろん冗談ですが、ガソリン臭い空港の敷地に生えた草を食べているうさぎの肉は、ガソリン臭いにちがいないというわけです。そして昨晩の私が読んでいた『不思議な国のアリス』の物語設定は、シャルル・ド・ゴール空港の滑走路の地下。はじめて読んだ高校生のころではかなわなかった、経験に培われた想像力の賜物にほかなりません。