売り方がうまいフランス人 2009/01/01 

目下、食べ物にまつわるエッセイを書いております。絶対味覚を信じながらも本当は、ノスタルジーが料理を美味しくすると思う私。海苔のおむすびをむすぶたびに、こう念じます。子供のころ辻堂海岸で食べた、あのおむすびの味を再現したいものだと。

ところが食べて育ったわけではないフランス料理については、幼少期を回想するといったセンチメンタリズムは通用しません。その代わりフランス料理は、その生い立ちのエピソードが私を楽しませてくれます。たとえばジャガイモ料理を代表する、アッシ・パルマンティエ hachis Parmentierには、こんな裏話があるんですよ。

つぶしたジャガイモと牛ひき肉を層にし、オーブンで焼いたそれは、万人ごのみの家庭料理です。アッシはひき肉で、パルマンティエは18世紀後半、フランスにジャガイモを広めた偉大なる農学博士の名前なんです。七年戦争でドイツの捕虜になった博士は、収容所で毎日のように出されたジャガイモにご開眼。栽培が楽で栄養価の高いジャガイモを広めるための、博士の策略をフランス人の英知といわずして、なんといいましょう。

それまでにもジャガイモはありましたが、白い花が愛でられるのがせいぜいでした。食糧として人々の関心を買うために博士は、ジャガイモ畑を高い柵で囲い、昼間だけ警備を厳重にした。つまり、隠せばみたがる人間の心理を逆手にとったわけです。すると博士の思惑どおりで、夜になると畑に大勢のジャガイモ泥棒が出没。うわさがうわさを呼んで、食べたら美味しいジャガイモ人気が沸騰。以来、料理名にパルマンティエとあったら、ジャガイモが使われていることまちがいなし。由来を知ると倍も美味しくなるのが、フランス料理の魅力です。