オリーブの実とピカソ 2008/10/15 

気がついたのは、10日ほど前でした。昨年、GSの開店祝いにいただいた、オリーブの木の枝に、大きな実がなっているではありませんか。まるでアロンアルファで着けたようにぶら下がっている一粒の実のところだけ、異次元空間のようですよ。150センチほどの鉢植えをくださったのは毘沙門さま前の、クレープ屋さんのオーナー夫人のゆう子さん。みすぎると落ちてしまいそうな気がして、はらはらの毎日です。とはいえ万有引力の法則には抗えませんから、そうなったら塩漬けにして、細かく刻んで作ったピザにのせますね。

「こんなにたくさん花が咲いても、なるのはせいぜい一粒なんだよね」
夏の盛り、ふいにGSにいらした五味太郎さんが帰りしな、オリーヴの木にびっしり咲いていた花を眺めて、こうおっしゃったことを思い出しました。かといって、一粒を期待していたわけではありません。地中海沿岸の村で大量の実をつけるオリーブの巨木にくらべるべくもないほど、けなげなGSの木に花が咲いていた酷暑のころを振り返っていただけでした。ところが不思議なことが重なるもので、一粒のオリーブがピカソを連れてきてくれたのです。

ピカソといっても版画で、20年ちかく前に蚤の市で買ったまま、あることさえ忘れていた「平和の鳩」。数ヶ月前、東京に戻ってはじめて解いた、パリからの引越し荷物の隅のほうにその版画がありました。広げてみると、白地に無数のシミがついているではありませんか。モチーフが好きで買ったものの、ほったらかしにしていた罰です。かかる費用を考えて一瞬ためらいましたが、額縁屋さんにシミ抜きをたのむことにしました。オリーブの実をみつけた日に、版画がきれいに仕上がったという連絡をもらいました。せっかくなのでGSに飾りましょうと、いつも車で動いている親友に額を取りにいってもらいました。届いた版画をよくみると、鳩が嘴にくわえている枝はオリーブ。ふたつの偶然の物語でした。