フランスの医療 2006/10/15 
『日本の、これから』というNHKの番組の、「医療に安心できますか」をご覧になりましたか?医師会、厚労省と市民50人が参加しての激しい討論会は、国会答弁よりずっと面白かった。不謹慎のそしりを覚悟で申しますと、なにかにつけて先進諸国の医療レベルを引き合いに出し、わが国のそれの劣悪ぶりをいとも簡単に云々しているのが滑稽でした。

フランスだけでなく、先進諸国にホーム・ドクター制が浸透しています。オピタルと呼ばれる公立の大病院もありますが、患者がじかに行って診察を請うケースは稀です。待合室に初診の病人ひしめく光景もありません。とはいえ勤務医と看護婦さんについてはフランスも例外ではなく、劣悪な労働条件に対する抗議デモが頻発しているのが現状です。

わが国の開業医に相当するホーム・ドクターは、個人経営のお医者様。俗にいう町のお医者様で、私たちが家族でお世話になっていたところは先生のほかに、お医者様が二人と受付のマダムだけでした。評判のいい先生に、予約が集中するのは当然ですね。町のお医者様の規模を超えた民間病院はクリニックと呼ばれ、入院設備があります。

ホーム・ドクターもクリニックも、受診の際に診察料を患者が立て替えて支払い、健康保険でカバーする金額が後に還付される仕組みです。旧植民地からの出稼ぎ労働者など、立て替える余裕のない人たちのためには、無料の保健所が用意されています。大病院のお世話になるか否かを決めるのは、患者ではなくお医者様。医は仁術という儒教的な言葉が、意外やフランスのお医者に当てはまると思います。難しい問題を手短に申し上げて僭越ですが、フランス人は医療に不安を抱いていないことは確かです。